AI税理士の経営管理教室 第2回 貸借対照表は何を見るもの?BSには経営判断の結果が残っている
はじめに
前回は、
「利益が出た=その分だけ現金が増える、ではない」
という話をしました。
では、その利益を出してきた結果、会社が今どんな状態になっているのか。
それを見るのが、貸借対照表。
いわゆるBSです。
「BSって、資産と負債が並んでいる表ですよね」
そう思いますよね。
でも、私はもう少し違う見方をしています。
BSを見ると、「この会社が今までどんな経営をしてきたのか」が見えてきます。
特に中小零細企業では、経営者のお金の使い方や判断が、BSにかなり強く表れます。
今日は、BSを単なる数字の一覧ではなく、
「経営判断の結果が残っている表」
として見てみましょう。

BSは、「今の会社の姿」を写している

「先生、正直なところ、損益計算書は見るんですけど、 貸借対照表はほとんど見ていません。」

「売上や利益の方が気になりますよね。」

「そうなんです。結局、利益が出ているかどうかが大事じゃないですか?」

「もちろん利益は大事です。
でも、その利益を出してきた結果、今どんな会社になっているのか。
そこを見るのが、BSなんです。」

BSを見ると、
現預金はいくらあるのか
在庫や売掛金はいくらあるのか
車や設備をどれくらい持っているのか
借入金はいくら残っているのか
役員貸付金などが膨らんでいないか
純資産はいくら積み上がっているのか
が分かります。
これは、ただ数字が並んでいるわけではありません。
今、その会社がどんな体質になっているのか。
その姿がBSに出ています。
今のBS一枚だけでも、過去はかなり見える
ここがPLとの大きな違いです。
PLは、その期の売上や費用、利益を見る資料です。
一方、BSには、
車が多い。
借入金が大きい。
役員貸付金が残っている。
純資産が積み上がっている。
といった、これまでの経営の積み重ねが残っています。
もちろん、BS一枚だけですべての事情が分かるわけではありません。
でも、
「この会社は、これまでどんな経営をしてきたのだろう?」
と考えるには、かなり情報量の多い資料です。
私は、
PLは今期の動き。BSは、これまでの積み重ね。
と考えると分かりやすいと思っています。
あなたが銀行員なら、どちらの会社に貸しますか?
ここで、少し極端な例を考えてみましょう。
どちらも設立20期の会社です。資産の規模も同じとします。

では、この図解を踏まえてA社とB社を比べてみます。
A社 | B社 | |
今期利益 | 2,000万円 | 200万円 |
総資産 | 3億円 | 3億円 |
負債 | 2億7,000万円 | 1億円 |
純資産 | 3,000万円 | 2億円 |
総資産に占める純資産の割合 | 10% | 約67% |
PLだけを見れば、A社の方が良く見えます。今期2,000万円の利益が出ていますからね。
一方、B社の今期利益は200万円です。 これだけを見ると、A社の方がずっと優良な会社に見えるかもしれません。
でも、BSを見ると印象が変わりませんか?
A社は3億円の資産を持っていますが、 そのうち2億7,000万円が負債で、純資産は3,000万円です。
一方、B社も資産は同じ3億円ですが、負債は1億円。純資産は2億円あります。
つまり、同じ3億円の資産を持つ会社でも、その資産を「どんなお金で支えているか」はまったく違うのです。
A社は今期しっかり利益を出しています。 それでも、BSを見ると負債への依存度は高めです。
B社は今期の利益こそ小さいですが、 これまで積み上げてきた純資産が厚く、財務的な余裕があります。
もちろん、銀行が融資を判断するときは、 今期利益やBSだけで決めるわけではありません。 資金繰り、業種、今後の見通しなども含めて判断します。
それでも、 「今期いくら儲かったか」だけでは会社の状態を判断できないことは、 この2社を比べると分かりやすいと思います。
あなたが銀行員だったら、 どちらの会社に安心してお金を貸せそうですか?
と考えると、BSを見る意味が分かりやすくなります。
今期の利益が大きい会社=財務基盤が強い会社、とは限りません。
PLは今期の勢いを見る。
BSは、これまで何を積み上げてきた会社なのかを見る。
この違いは大きいです。
在庫や売掛金も、「なぜそこにあるのか」を見る
在庫や売掛金も、金額だけでは判断できません。
大切なのは、
なぜ、その数字になったのか?
です。
必要な在庫なのか。
売れ残りが増えているのか。
売掛金は売上が増えた結果なのか。
それとも回収が遅れているのか。
BSを見るときは、「いくらあるか」だけではなく、「なぜそこにあるのか」を考える。
このあたりは、後の授業でもう少し詳しく見ていきます。
「資金繰りが厳しい」と言う前に、BSを見てみる
少し耳の痛い話をします。
「資金繰りが厳しいんです」
という会社のBSを見ると、高額な車両やオーバースペックな設備が載っていることがあります。
もちろん、事業上どうしても必要なら問題ありません。
でも、
会社の資金力に対して重すぎる
利益への貢献が小さい
見栄や趣味の要素が強い
借入までして買った
その結果、現預金が薄くなっている
というのであれば、少し見方を変えてみてほしいんです。
その資金繰りの厳しさは、 本当に景気や売上のせいだけでしょうか?

同じ500万円の利益が出ても、そのお金を何に使うかで、期末のBSは変わります。
たとえば、500万円で車を買えば、
現金として残るはずだった500万円が、車両500万円に姿を変えます。
一方で、その500万円を借入金の返済に回せば、
現金を増やす代わりに、負債を500万円減らすことができます。
どちらも今期の利益は同じ500万円です。
でも、期末のBSに残る姿は違います。
ここで一つだけ確認してみましょう。
その500万円を、 今どこに使うのが会社にとって一番よいでしょうか?
事業に必要な車なら、もちろん購入する意味があります。
一方で、借入金が多く、返済負担を軽くしたい会社なら、借入金を減らす方がよいこともあります。
大切なのは、
「利益が出たから使う」ではなく、 「今の会社にとって、その500万円をどこに置くのが一番よいか」で考えることです。
「節税になるから」 「銀行が貸してくれるから」 「利益が出たから」
だけで決めるのは、少し注意した方がいいですね。
使えるお金には限りがあります。
その支出によってBSがどう変わるのか。 ほかの使い道と比べて、本当にそこへお金を置くのがよいのか。
そこまで考えると、支出の見え方はかなり変わってきます。
BSには、「意図した判断」も「何となくやった結果」も残る
BSに残っている数字の全部が、
「きちんと計画して作った結果」
とは限りません。
気付いたら在庫が増えていた。
儲かったから車を買い換えた。
資金が足りなくなるたびに借入をしていた。
そういう結果も、今のBSに残ります。
だから私は、
中小零細企業のBSは、経営者の経営姿勢や経営判断の結果を映す鏡でもある。
と考えています。
良い判断も。
少し無理をした判断も。
何となく続けてしまった判断も。
数字として残ります。
だからこそ、BSは面白いんです。
BSを見て、これから同じ判断を続けますか?
過去を責める必要はありません。
そのときには、それが良い判断に思えたのかもしれません。
でも、今のBSを見て、
「なぜこうなったのか」
が見えてきたなら、次の判断は変えられます。
ここで一度、自分に問いかけてみてください。
「これからも、同じお金の使い方を続けますか?」
「このお金の使い方は、もう繰り返さない」
「この借り方は見直そう」
「会社と個人のお金はきちんと分けよう」
そうやって意思決定を変えていけば、BSも少しずつ変わります。
BSを良くするとは、これからの意思決定を変えることです。
「かっこいいBS」って何?
では、自分の会社のBSは、5年前より少し強くなっているでしょうか?
私は、まずシンプルに、
BSの左上と右下を、少しずつ厚くしていく
というイメージを持ってもらうと分かりやすいと思います。

図解④のように、同じところからスタートした会社でも、5年たつとBSの姿はかなり変わります。
もちろん、実際の経営はこんなに単純ではありません。 毎年同じ利益が出るわけでもありませんし、 大きな設備投資や借入が必要になる年もあります。
それでも、見てほしい方向はシンプルです。
現預金に少しずつ余裕ができているか。 純資産が少しずつ厚くなっているか。 借入金への依存が、必要以上に大きくなっていないか。
一年だけを切り取れば、数字が悪くなる年があってもおかしくありません。
大切なのは、
3年後、5年後に、今より少し強いBSになっているか。
という視点です。
利益が出た年に、そのお金を全部使ってしまうのか。 会社に残すのか。 借入金の返済に回すのか。 将来の利益を生む投資に使うのか。
そうした一つ一つの判断が、少しずつBSに残っていきます。
すでに現預金に余裕があり、純資産も積み上がっているなら、 それはこれまでの経営判断の結果です。
今はまだ余裕がなくても、そこで会社の良し悪しが決まるわけではありません。
BSは一年で完成させるものではなく、毎年の経営判断で少しずつ育てていくものです。
本当の価値が分かるのは、「何かあったとき」です
本当の価値が分かるのは、
何かあったときです。
売上が急に落ちた。
大きな災害が起きた。
世界的な経済ショックが起きた。
こうした出来事は、
「一生に一度あるかないかの特殊な事故」
と考えない方がいいと思います。
この20~30年を振り返っても、企業経営に大きな影響を与える出来事は何度も起きています。
経営を10年、20年と続けるなら、
その途中で、何らかの大きな外部環境の変化に遭遇する可能性は十分にあります。
「100年に一度だから、もう当分起きない」
と考えるより、
5年、10年と経営していれば、その間に何か大きな環境変化が起きても不思議ではない。
そのくらいの前提で考えておいた方が安全です。
何が起こるかまでは分かりません。
でも、
何かが起きる可能性は想定しておく。
これはできます。
現預金が十分あり、純資産も厚い会社なら、
「少し厳しくても、まず状況を見て考えよう」
という時間があります。
一方、現預金に余裕がなければ、
「来月の給与をどうする?」
から始まるかもしれません。
この差は大きいです。
強いBSは、経営者に「考える時間」と「選択肢」を与えてくれます。
だから、会社が順調なときに少しずつBSを強くしておく。
それも、経営者の大切な仕事です。
今日の授業のポイント!

① BSは、今の会社の姿
今のBSには、これまでの経営の積み重ねが残っています。
② BSは、経営判断を映す鏡
会社のお金を何に使ったのか。
どれだけ借りたのか。
どれだけ会社に残したのか。
その結果がBSです。
③ 目指すのは、少しずつ強いBSにしていくこと
現預金を厚くする。
純資産を積み上げる。
自己資本比率を改善する。
そして、何かあったときにも、
考える時間と選択肢を持てる会社にする。
BSを見る目的は、過去を責めることではありません。
これから、どんな会社を作るのかを考えることです。
次回は、PLとBSをどう一緒に見るのか?
BSが、
「今の会社の姿」であり、これまでの経営判断の積み重ね
だと分かったところで、次はPLとBSを一緒に見ていきます。
次回は難しい会計の話ではありません。
たとえば、
「利益が500万円出た。その500万円は今どこにある?」
そんな簡単な例を使いながら、
PLとBSを行ったり来たりして見る感覚
を一緒につかんでいきましょう。

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