top of page

Q. 売上や利益がいくらになったら法人成りを考えるべきですか?

  • 4 日前
  • 読了時間: 11分

個人事業を続けていると、

「利益が800万円くらいになったら法人にした方がいい」

「売上1,000万円を超えたら法人でしょう」

といった話を耳にすることがあります。


ネットで法人成りのタイミングを調べても、

「利益800万円」

「売上1,000万円」

といった数字はよく出てきます。


こうした情報を見ると、

どこかに「ここを超えたら法人」という明確な境目があるように思えますよね。


でも、実際はそんなに単純ではありません。


法人成りを判断するための、万人共通の「利益○○万円」という境目はありません。


では、なぜ800万円という数字がこれほどよく出てくるのでしょうか。


そして、自分の場合は何を見て判断すればよいのでしょうか。





経営者からの質問

個人事業の利益が増えてきました。 「利益800万円くらいになったら法人にした方がいい」 と聞いたことがあります。 ネットで調べても、800万円や1,000万円という数字をよく見かけます。 売上や利益がいくらくらいになったら、法人成りを考えればよいのでしょうか?


AI税理士の回答


結論からお伝えします。


「利益800万円を超えたら法人」という明確な境目はありません。


ただし、「800万円」という数字が何の根拠もなく広まったわけではありません。


そう言われるようになった理由はあります。


大切なのは、その理由を理解したうえで、

自分にもその考え方が当てはまるのかを考えることです。



1.まず「売上」だけでは判断できません


例えば、次の2人を考えてみましょう。


Aさん売上2,000万円経費1,700万円利益300万円

Bさん売上1,000万円経費300万円利益700万円


売上だけを見れば、Aさんの方が大きな事業です。


でも、法人成りによる税負担の違いという点では、利益700万円のBさんの方が検討する余地が大きいかもしれません。


つまり、

「売上が大きくなったから法人」ではありません。

まず見るべきなのは、事業からどれだけ利益が残っているのかです。


ただし、利益だけを見ればよいという話でもありません。



2.なぜ「利益800万円」が法人成りの目安と言われるのか


「800万円」という数字が広まった背景の一つに、個人と法人の税率の違いがあります。


個人の所得税は累進課税です。


課税所得が増えるほど税率が上がり、課税所得が695万円を超えるとその超える部分について所得税率は23%になります。


一方、一定の中小法人では、年800万円以下の所得部分について法人税の軽減税率15%が適用されます。


こうした数字だけを見ると、

「個人の税率が高くなってくる700~800万円あたりから、法人にした方が有利なのでは?」

という考え方が出てきます。


これが、「利益800万円くらいが法人成りの目安」と言われる背景の一つです。


ですから、800万円説そのものに理由がないわけではありません。


ただし、ここには注意が必要です。

所得税の23%は、所得全体に23%がかかるという意味ではありません。695万円を超えた部分に適用される税率です。


そもそも「事業の利益800万円」と「税金を計算するときの課税所得800万円」も同じではありません。


また、法人税15%という数字も、法人が負担するすべての税金を表しているわけではありません。


法人化すると社会保険料も関係しますし、役員報酬の設定、法人の維持費なども考える必要があります。


したがって、

「個人の所得税率が法人税率より高くなったから、法人の方が得」

と単純に判断することはできません。



3.AI税理士がネット上の「法人成りの目安」を見てみると


実際にネット上の記事を見てみると、

「利益800万円前後」

「所得800万円~1,000万円程度」

を法人成りの目安として紹介している記事は珍しくありません。


税理士が書いた記事でも、この水準を「法人成りを検討し始める目安」として紹介しているものがあります。


ですから、

「800万円くらいになったら法人にするものなんだ」

と経営者が考えるのも無理はありません。


一方で、税理士の意見がすべて同じというわけでもありません。


「800万円では法人成りを急ぐ必要はない」

「社会保険料まで含めるとメリットが小さいこともある」

「もっと十分な利益が出てから法人化した方がよい」

といった考え方もあります。


中には、利益1,500万円程度以上を一つの目安として考える税理士もいます。


では、

800万円と1,500万円、どちらが正しいのでしょうか。


私は、「今度は1,500万円が正解です」と新しい境界線を作る必要もないと思います。


むしろ、なぜ同じ税理士でも判断が違うのかを考えることの方が大切です。



4.同じ利益でも「個人でいくら必要か」で意味が変わる


例えば、利益800万円の個人事業を考えてみます。


家計などのために年間600万円から700万円程度を個人で必要としているのであれば、法人化した後も、その多くを役員報酬として受け取ることになるでしょう。


そうすると、法人側に残せる利益はそれほど多くありません。

せっかく法人と個人を分けても、稼いだ利益のほとんどを個人へ移すのであれば、 「法人と個人に所得を分ける」という効果も小さくなります。


一方、例えば年間1,500万円程度の利益が安定してあり、

個人で700万円程度を受け取りながら、法人にも相応の利益を残せる

のであれば、状況は変わってきます。


もちろん、実際には会社負担の社会保険料などがありますので、700万円と800万円にそのまま分けられるという意味ではありません。


ここで見てほしいのは金額そのものではなく、利益に余裕があるかどうかです。


法人側にも十分な利益が残れば、

  • 従業員を採用する

  • 設備投資をする

  • 運転資金を厚くする

  • 売上が落ちたときに備える

  • 新しい事業へ投資する

といった選択肢を持ちやすくなります。


例えば新人を一人採用するとしても、必要なのは給与だけではありません。


会社負担の社会保険料、採用費、パソコンや机などの備品、教育にかかる時間や費用も必要です。


法人としてある程度の利益を継続して残せる状態であれば、こうした経営判断もしやすくなります。





「利益はいくらか」だけではなく、「個人で必要なお金を取った後でも、法人に利益を残せるか」という視点が大切です。



5.「目安」が人づてに「境界線」へ変わることもある


ネットの記事をよく読むと、

「一つの目安です」

「社会保険料も考慮してください」

「個別事情によって異なります」

といった注意書きが付いているものもあります。


ところが、人から人へ話が伝わると、

「利益800万円を超えたら法人にした方が得」

という部分だけが残ってしまうことがあります。


さらに、

「まだ法人にしていないの?」

「税理士さんから何も言われないの?」

などと言われれば、

「自分は何か損をしているのでは?」

と不安になる人もいるでしょう。


でも、そのアドバイスをしてくれた人は、

あなたが年間いくら生活費を必要としているのか。

来年も同じ利益が出そうなのか。

これから人を雇うのか。

大きな投資を予定しているのか。

法人化すると社会保険料がどう変わるのか。

そこまで分かったうえで話しているでしょうか。



ネットでは「目安」だった数字が、人から人へ伝わるうちに「ここを超えたら法人」という境界線に変わってしまうことがあります。


参考になる意見として聞くのはよいと思います。

ただし、最終的に法人化するかどうかを決めるのは、事業を行っている経営者本人です。



6.シミュレーションをすれば正解が出る、とも限らない


では、個人事業のままの場合と法人化した場合について、税金や社会保険料をシミュレーションすれば答えが出るのでしょうか。


ここも、それほど単純ではありません。


現在の利益が800万円だからといって、来年も800万円とは限りません。


1,200万円になるかもしれませんし、500万円まで下がるかもしれません。


大きな設備投資をするかもしれません。


従業員を採用するかもしれません。


大口の取引先を失う可能性もあります。


法人成りのシミュレーションは、どうしても現在分かっている数字を使った予測になります。


例えば計算上、

「法人の方が年間20万円有利です」

という結果が出たとしても、その差だけを理由に法人化することには慎重になった方がよいでしょう。


2~3年後に経営状況が変われば、その20万円という差にほとんど意味がなくなっている可能性もあるからです。


一方、毎年かなり大きな利益が安定して発生しているなど、差が明らかなケースもあります。


法人成りには、比較的判断しやすいケースもあれば、どちらが有利とも言い切れないケースもあります。



7.税金以外に「法人という器」が必要になっているか


法人成りは、税金だけの問題ではありません。


例えば、

  • 従業員を増やして組織として事業を広げたい

  • 事業へ継続的に利益を再投資していきたい

  • 複数人で事業を行いたい

  • 取引先との関係で法人が必要になってきた

  • 将来的な事業承継を考えたい

  • 個人ではなく、会社として長く事業を続けたい

という状況になっているのであれば、法人という器を使う意味が出てきます。


こうなると、

「法人にすると税金が年間何万円安くなるか」

だけで法人化を考える必要はなくなってきます。


事業を行うために法人という器が必要になったから法人にする。


その結果として、法人には個人事業とは違う税金の仕組みや制度がある。


私は、この順番で考える方が自然だと思います。


逆に、

「税金が少し安くなりそうだから」

という理由しかなく、法人として会社を運営する必要性を感じていないのであれば、急いで法人化する必要はないかもしれません。


法人になれば、社長一人だけの会社でも健康保険・厚生年金の適用事業所になります。


税務申告、給与計算、社会保険、登記、議事録など、個人事業にはなかった管理も増えます。


それらを引き受けてでも法人という器を使う意味があるのか。


そこまで考えて法人成りを判断した方がよいでしょう。



現役税理士からの補足


私は、利益800万円程度になったからといって、急いで法人成りをおすすめすることはあまりありません。


法人になると、社会保険料だけでなく、税務申告、給与計算、各種手続き、専門家報酬など、個人事業にはなかった管理コストも増えます。


そのため、利益800万円程度では、法人化によって税金が少し下がっても、社会保険料や管理コストが増え、結果として個人の手取りが減ることも十分考えられます。


私が法人成りを積極的に検討しやすいと感じるのは、例えば個人事業で1,500万円、2,000万円、3,000万円と、個人の生活費として使うには明らかに大きな利益が安定して残るようになったときです。


そのくらいの収益力があれば、法人化した後も社長が必要な役員報酬を受け取りながら、会社にも利益を残しやすくなります。


もう一つ大切なのが、個人側の資金余力です。


個人事業で高い利益を何年か継続できれば、税金や生活費を支払った後にも、個人の財布に一定の資金を蓄積できる余地が生まれます。


これは法人経営を始めるうえでも大切だと思います。


法人にもお金がない。個人にもお金がない。


この状態で会社を経営するのは、資金繰りの面でも精神的にもかなり厳しくなります。


一方、個人にある程度の資金的な余裕があれば、法人の売上が一時的に落ちたり、予定していなかった支出が発生したりしたときにも、余裕を持って対応しやすくなります。


もちろん、「利益1,500万円になったら法人」という新しい境界線を作りたいわけではありません。


業種によって利益の安定性も違いますし、大きな投資が必要な事業もあります。


ただ私は、節税額が少し出そうだから法人にするのではなく、まず個人事業でしっかり利益を出せる体制を作り、事業にも個人にもある程度の資金的な余力を作ってから、法人という器を使うという順番をおすすめしています。



経営者に気付いてほしいこと


「売上がいくらになったら法人ですか?」

「利益800万円なら法人ですか?」


この質問に、すべての経営者に共通する数字で答えることはできません。


800万円という目安が広まったことには、一応の理由があります。


そして、その水準から法人化を検討した方がよいという税理士もいます。


一方で、800万円では急ぐ必要はなく、もっと十分な収益力をつけてから法人化した方がよいと考える税理士もいます。


どちらか一方だけが正しく、もう一方が間違っているという話ではありません。


前提としている生活費、社会保険料、会社に残せる利益、資金余力、今後の事業展開などが違えば、結論も変わるからです。


だからこそ、経営者自身に考えてほしいのです。


今の利益はいくらか。

個人でいくら必要なのか。

法人にいくら残せるのか。

その利益は今後も続きそうなのか。

個人にも資金的な余裕があるのか。

そして、法人という器がこれからの事業に必要なのか。

法人成りには「○○万円を超えたら」という一本の境界線はありません。


ネットの記事も、知人のアドバイスも、税理士の意見も、判断材料の一つです。

最後に会社を作るかどうかを決めるのは、経営者本人です。


なお、法人には、給与所得控除、社宅、出張旅費・日当、役員退職金など、個人事業とは異なる制度や選択肢があります。


ただし、

そうした制度を使うために法人を作る、という順番ではありません。


法人として事業を行うことを選んだ結果、どのような制度を利用できるのか。

この点については、次の記事で詳しく取り上げます。

コメント


© 2026 AI税理士と考える「安全域」の経営学

bottom of page