Q.個人事業を経験せず、いきなり法人設立で起業するのは甘いですか?
- 1 日前
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前の記事では、個人事業と法人について、「どちらが上か」で考えるのではなく、それぞれのお金の扱いや管理の仕方まで含めて選ぶ必要がある、とお話ししました。
では、個人事業を経験せず、最初から法人を設立するのは無謀なのでしょうか。
実は、重要なのは個人事業を経験したかどうかではありません。
法人という組織を、自分たちできちんと運営できる準備があるかどうか。
今回は、売上や資金だけでなく、起業前には見落としやすい「会社を管理する仕事」まで含めて考えてみます。

経営者からの質問
会社を辞めたら、個人事業を経験することなく、すぐに法人を設立して起業したいと考えています。 これは甘いでしょうか? 個人事業から始めて、ある程度経験してから法人にした方がよいのでしょうか? うまく行きやすい人、苦しくなりやすい人の違いも含めて、一通りアドバイスをください。
AI税理士の回答
結論から言うと、 個人事業を経験せず、最初から法人で起業すること自体は甘くありません。
個人事業を何年か経験して、経営者としてレベルアップしたら法人になれる、 というものではありません。
最初から法人を選ぶことにも合理的な理由はあります。
ただし、大切なのは、
「法人を作れるか」ではなく、「法人という組織を運営できるか」
です。
前の記事でもお話ししたように、法人は個人事業の上位版ではありません。
会社と個人のお金を分け、会社に必要なお金を残し、会社として管理していく必要があります。
さらに法人になると、本業以外の管理業務も一般的には増えていきます。
ですから、
「会社を辞めるなら株式会社でしょ」
「法人の方が信用されそう」
「法人なら節税できそう」
という程度の理由だけで法人を作るのであれば、私は少し慎重に考えた方がよいと思います。
個人事業を経験していないこと自体は問題ではありません
私が気にするのは、個人事業の経験年数ではありません。
個人事業を何年経験していても、お金の管理がなぁなぁな人はいます。
反対に、初めて起業する人でも、
「会社のお金と自分のお金は別」
「売上が入っても全部使ってはいけない」
「会社に必要な資金を残しておく」
という考え方ができる人もいます。
ですから、
「まず個人事業を経験しなければ、法人経営はできない」
と考える必要はありません。
問題は、最初から法人として必要な管理ができるかどうかです。
法人を作ることと、事業が成り立つことは別です
法人登記をすれば、会社はできます。
でも、それだけでお客様が増えるわけではありません。
売上が生まれるわけでも、利益が出るわけでもありません。
会社名を考える。
ロゴを作る。
ホームページを作る。
名刺を作る。
事務所や設備を整える。
こうしたことをしていると、だんだん「会社を経営している」気分になります。
もちろん、必要なものもあります。
でも、経営として最初に確認したいのは、
誰に、何を売って、いつ、いくらのお金が入ってくるのか
です。
法人を作ることと、事業を成立させることは別の話です。
法人経営では「本業以外の仕事」も増えていきます
そして、ここからが今回特にお伝えしたいところです。
事業を始めると、商品を作ったり、お客様を集めたり、サービスを提供したりする仕事だけをしていればよいわけではありません。
会社を管理する仕事も発生します。
個人事業でも、
請求書を発行する
入金を確認する
経費や領収書を整理する
支払いを管理する
契約書や書類を管理する
税金や各種期限を確認する
といった仕事はあります。
法人になると、これらに加えて、会社の規模や従業員数などに応じて、
給与や勤怠の管理
社会保険などに関する事務
入退社に伴う事務
経費精算
役員や会社に関する各種手続き
社内ルールの整備
各種書類や期限の管理
など、一般的には管理する仕事が増えていきます。
こうした仕事は、直接売上を作るわけではありません。
でも、誰かがやらなければ会社は回りません。
法人を作るということは、本業だけでなく「会社を管理する仕事」も引き受けるということです。
ここは、法人設立前にぜひ認識しておいてほしいところです。
「従業員は全員営業」という計画になっていませんか?
たとえば、将来5人を雇う計画だったとします。
そのとき、
「営業社員を5人採用すれば、これだけ売上が増える」
という計画だけを作っていないでしょうか。
社員が増えれば、社員に関する管理業務も増えます。
5人の勤怠は誰が確認するのでしょうか。
給与に必要な情報は誰が集めるのでしょうか。
請求書は誰が発行するのでしょうか。
売掛金の入金確認は誰がするのでしょうか。
経費精算は誰が確認するのでしょうか。
入社や退職に伴う書類は誰が管理するのでしょうか。
採用する人を全員、営業や現場で売上を作る人として計算してしまうと、管理業務をする人が計画から抜け落ちます。
もちろん、小さな会社が最初から「経理部」「総務部」を作る必要はありません。
社長自身が担当してもよいでしょう。
社員の一人が兼務する方法もあります。
パート社員に担当してもらう方法もあります。
一部を外部へ依頼することもできます。
ただし、どの方法を選んでも、
「誰が会社を管理するのか」
は決めておく必要があります。
会社をある程度大きくしていくことを考えているのであれば、営業や現場の人員だけでなく、管理業務を担う人材も人員計画に入れておきたいところです。
当然、そのための予算も必要です。
税理士がいれば、管理業務を全部任せられるわけではありません
ここは、起業する人に誤解されやすいところです。
「経理や税金のことは税理士さんに頼むから大丈夫」
と思う人もいるかもしれません。
でも、税理士は会社の管理部門そのものではありません。
会社の管理業務の一部分を、外部から支援する専門家です。
税務や会計について相談したり、申告を依頼したりすることはできます。
契約内容によっては、記帳などの業務を依頼することもあるでしょう。
しかし、税理士は会社の中にいるわけではありません。
今日どこへ請求書を出したのか。
その代金が入金されたのか。
誰が何を立て替えたのか。
社員の勤怠に問題がないか。
契約書がどこに保管されているのか。
社内でどんなことが起きているのか。
こうした日々の出来事を、外部にいる税理士がすべて把握して管理することはできません。
ですから、
「税理士と契約したから、会社の管理は大丈夫」
とはなりません。
社内で行う仕事。
税理士に依頼する仕事。
その他の専門家や外部業者に依頼する仕事。
これらを分けて考える必要があります。
社長が全部やるなら、本当にそこまで手が回りますか?
起業したばかりの小さな会社なら、
「経理や総務は、とりあえず自分でやります」
でも構いません。
実際、そういう会社は多いと思います。
ただし、一つ考えてほしいことがあります。
本当に、そこまで手が回るでしょうか。
社長は、
営業する。
商品やサービスを提供する。
お客様に対応する。
採用する。
社員を管理する。
資金繰りを考える。
会社の方向性を考える。
そのうえで、
請求書を作る。
入金を確認する。
領収書を整理する。
給与や勤怠に必要な情報を確認する。
書類を管理する。
こうした仕事も行います。
起業直後はできても、売上や社員が増えてくれば難しくなることがあります。
そして、
「社長がやれば無料」ではありません。
社長が管理業務に2時間使えば、その2時間は営業や本業、経営判断には使えません。
社員を雇えば人件費がかかります。
外部へ依頼すれば外注費がかかります。
社長自身がやれば、社長の時間を使います。
どの方法を選んでも、コストはゼロではありません。
「誰が会社を管理するのか」 「そのためにどのくらいの人とお金が必要なのか」 まで事業計画に入れてください。
法人で事業を大きくしていくのであれば、ここまで考えておきたいところです。
うまく行きやすい人と、苦しくなりやすい人の違い
最初から法人で始める場合の考え方を整理すると、このようになります。
項目 | うまく行きやすい人 | 苦しくなりやすい人 |
売上 | いつ、誰から、いくら入るかを考えている | 会社を作れば何とかなると思っている |
資金 | 売上が少なくても耐えられる資金を考えている | 足りなくなったら借りればよいと思っている |
役員報酬 | 生活費だけでなく会社の資金繰りも見る | 前職と同じくらい欲しいと考える |
経費 | 最初は身軽に始める | 法人だからいろいろ経費にできると思っている |
税金 | まず売上と利益を作る | 起業直後から節税ばかり考える |
お金の管理 | 会社と個人のお金を分ける | 会社のお金を自分のお金のように扱う |
管理業務 | 誰が担当するかを考え、必要なコストも見込んでいる | 税理士に頼めば全部やってもらえると思っている |
人員計画 | 営業・現場だけでなく管理業務を担う人も考える | 採用する人は全員売上を作る前提で考える |
見直し | うまく行かなかった場合の対応も考えている | 気合いで何とかなると思っている |
ここで見てほしいのは、個人事業を何年経験したかではありません。
どちらの考え方で会社を運営しようとしているかです。
では、最初から法人でもよいのはどんな人?
私なら、
法人にする理由があり、 売上や資金の見通しを考え、 会社のお金を個人のお金と分け、 本業以外の管理業務まで含めて「誰が会社を回すのか」を考えている人
であれば、個人事業を経験していないこと自体を大きな問題だとは思いません。
反対に、
「法人の方が立派に見えるから」
「社長になりたいから」
「細かいことは税理士さんにお願いすれば何とかなるから」
という状態なら、少し立ち止まった方がよいでしょう。
問題なのは、個人事業を経験していないことではありません。
法人を作った後に発生する仕事を理解しないまま、法人だけを先に作ってしまうことです。
現役税理士からの補足
法人を作ると、営業や本業以外にも多くの管理業務が発生します。
税理士は、その管理部門の一部を外部から支援する専門家であって、会社の管理を全部引き受ける存在ではありません。
経営者自身でやるのか、社内に担当者を置くのか、外部へ依頼するのか。
法人を作る前に、「誰が会社を管理するのか」まで考えておいてほしいと思います。
経営者に気付いてほしいこと
個人事業を経験していないから、法人を作ってはいけないわけではありません。
大切なのは、経験年数ではありません。
会社のお金と自分のお金を分ける。
会社に必要なお金を残す。
本業だけでなく、経理や総務などの管理業務も含めて会社を運営する。
そして、会社が大きくなれば、
売上を作る人だけでなく、会社を支える人も必要になる。
ここまで考えられているかどうかです。
法人を作ること自体はできます。
難しいのは、その法人を継続して管理し、組織として運営することです。
「社長になる準備」ではなく、「会社を経営する準備」ができているか。
私は、ここを基準に「いきなり法人で始めてもよいか」を考えます。

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